天狗
投稿者:ひでき
2009/8/22(土) 20:51:52 No.2669
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高木優美(22) 綺麗な顔立ちに仕事がよく出来る彼女は社内でも有名だった。 男に媚を売らず、理不尽な上司へもハッキリとした口調で反発するプライドの高い女。 男性社員からは若い癖に仕事が出来る事から゛天狗?と陰で呼ばれていた。 そしてもう一つ、彼女が゛天狗?と呼ばれる訳があった。 あんな堅物女に男が居るわけ無い!男の代わりに天狗の面で自分を慰めてる! そんな事を男性社員達の間で言われ続けていた。 俺はそんな゛天狗?と呼ばれている高木優美のもう一つの顔を偶然にも見てしまった。 毎日、定時になると真っ先に退出していた彼女。 そして俺は給料後の週末ともあって行き付けのキャバクラ店へ意気揚々と出掛けた。 最近お気に入りの女の子を指名し楽しい時間を過ごしていた俺。 楽しい時間が過ぎるのは早い物で、いつの間にか日付が変わろうとしていた。 明日は休みだが、金銭的な余裕が無くなるのを恐れた俺は渋々会計を済まそうとしていた。 幾つか賑わっていたテーブルを恨めしそうに眺め歩いていると、見た事のある女性が座っているのに気付いた。 メイクや髪型は違っている物の白いスーツに身を纏う女性は間違いなく゛天狗?と呼ばれている高木優美だった。 支払いしながら男性店員へ聞いてみた。 『ねぇ、あのテーブルに居る白いスーツの女性は?』 (あぁ、あの子?先週から入った美優ちゃんって言うんです) (もしかして気に入っちゃいました♪) 『いやいや(笑)知ってる人に似てるな〜って思ってね。じゃ、また来るからさ』 (お待ちしております。ありがとう御座いました) 店を出てタクシー乗り場でタクシーを待つ事、約1時間。 不景気なんて嘘っぱちに思えた程、列を長くしていた。 すると、ヒールの音をカツカツと足早に歩く白のスーツの女性が俺の横を通り去った。 俺はもしやと思い列から離れ、女性を追いかけた。 何とか女性の近くまで追いついた俺は声を掛ける事にした。 『高木優美さん!』 俺の声に反応し振り向いた女性は紛れも無く高木優美だった。 「!!!!!!」 慌てて走り去ろうとする優美の肩を捕まえた俺。 『ちょっと待てって〜美優なんて名前変えてあんな所で何してたんだい?』 「誰ですか、貴方…それに私は優美なんて名前じゃありませんから!」 「離して貰えませんか?大声出しますよ??」 『そんな怖い顔しないでくれよぉ…』 「警察呼びますよ?」 警察の言葉に怯んだ俺は手を優美から離した。 すると、彼女は一目散に走り出した。 そして、自宅のあるマンションの前で鍵を鞄から取り出そうしてる際に俺もようやく追い付いた。 『はぁはぁはぁ…何も逃げなくてもさぁ・・はぁはぁ…』 『ねぇ、会社に知られちゃマズいと思わない?』 『キャバクラとは言えバレたらクビだと思うよ?』 「………………」 『ここ自宅?少し話さない?今後の事とか色々さ』 『もし、まだ俺を追い返したり、知らぬ顔をするなら部長に言っちゃうかもよぉ?』 「……………」 彼女は取り出した鍵を使いセキュリティの扉を開いた。 「………どうぞ…」 俺は彼女の後を黙って付いて行った。 エレベーターに乗り5Fで降り、彼女の自宅の前に到着した。 『此処?』 未だに沈黙を続ける彼女は黙って自宅の扉を開き、俺を招き入れた。 彼女の部屋は綺麗に片付けられており、余計な物は一切なかった。 部屋干ししていた洗濯物の中に、赤いショーツとブラジャーが目に入った。 『へ〜赤かぁ…ちょっと意外だったな……』 慌てて干してあった下着類を毟り取る感じでハンガーから外した。 『ねぇ、何か飲み物無いの?』 寝室の扉を開け、下着を放り投げると冷蔵庫から缶ビールをドンっと差し出された。 『怖っ!!』 缶ビールを飲みながら部屋の周りを見渡すと壁に゛天狗?の面が掛けられていた。 俺は思わずププっと含み笑いをしてしまった。 (何故この部屋で天狗?もしかして噂は本当だったとか??) 『ねぇ、あの面って何?』 「天狗ですけど・・それが何か?」 『やっぱ使ったりしてるの?』 「はい?何言ってるんですか?」 『使う訳ないか…笑』 「変な人……」 『で、どうする?俺に口止めしなくて良いのかい?』 「………………出来るんですか?」 『そりゃぁ、優美ちゃん次第だろぉ』 彼女は膝を付き、俺の前で正座をし、深く頭を下げてきた。 「お願いですから会社、そして他に他言しないで下さい……」 社内ではプライドが高いと言われていた彼女は惜しげもなく俺に頭を下げてきた。 『頭下げられてもなぁ……俺って口軽いからなぁ…』 「そこを、どうかお願いです……」 彼女は更に頭を沈め、床に付く位まで深くお辞儀をして来た。
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